「記憶の居場所」という商品は、一流エコノミストが自身の経験を通じて描いた痛快経済エッセイです。著者は新潟から上京し、材料工学を学びながらも保険会社に入社するという非理系の経歴を持っています。彼は平成の「失われた30年」の時代を迂回しながら渡り、節目で鋭いコメントを発信し続けてきました。
この本では、一流エコノミストがどのような視点で物事を見ているのか、その視点を垣間見ることができます。また、著者の人生の中で大きな転機となった「1997年」を軸に、新潟時代とエコノミストとしての立ち位置を模索した平成期という二つのステージを振り返りながら、軽妙なタッチで描写されています。
この本は、公人としての矜持と私人としての葛藤が巧みにミックスされており、共感度が高い51のエピソードで構成されています。著者は朝夕の経済ニュースの常連コメンテーターとしても知られていますが、日常の中でもさまざまな悩みを抱えています。子育て支援のシステムの使い勝手の悪さに嘆き、「ちょっとピンぼけ」などのエピソードでは笑いがこぼれます。また、「わかっちゃいるけどやめられない」というコンビニのレジ袋にまつわるエピソードや、「書かない殿下」の逆張り戦略など、他のエコノミストとは一味違った視点で経済を考える姿勢も魅力的です。
「記憶の居場所」は、エコノミストの視点から見たこの国の変容を、著者自身の歩みとともに綴ったエッセイです。そのユニークな視点と軽妙なタッチで描かれたストーリーは、読者に笑いと共感をもたらしてくれることでしょう。